プロの落語家として活躍する日系ブラジル人三世の、らむ音さんのお話(横浜市で暮らす外国人トークリレー/第10回)



外国につながる皆さんに、生活の中での日本語との関わりについて話していただくコーナーです。
今回登場するのは、プロの落語家として活躍する日系ブラジル人三世の、らむ音さんです。今でも日本語に苦手意識があると話すらむ音さんですが、古典的な日本語も操りながら、多くの方を魅了しています。日本語(ことば)との関わりや思いについて、落語の魅力を交えながら話していただきました。

落語家 らむ音さん
日本生まれ・日本育ち
幼少期より表現することが大好きで、武蔵野美術大学でアート・デザインを学んだ後、舞台役者の道へ。2017年落語家に転身し、2022年10月には二つ目に昇進しました。落語の楽しさ・素晴らしさを世界に広めるべく、日本語・英語・ポルトガル語の3か国語で独自の落語を築いています。YouTube「らむ音ちゃんねる-RAMUNE-」では、落語はもちろん普段のらむ音さんにも触れることができます!
日本語の壁を感じて
両親は、私が日本で生まれる数年前までブラジルで生活していました。そのため、私が幼少期に触れたことばは、ほぼポルトガル語のみでした。日本語に馴染みのないまま日本の小学校に入学し、遊びを通してことばを覚えましたが、勉強では苦労しました。一番難しく感じたのは、音読み・訓読みや敬語などです。日常生活でも、大人が使う丁寧なことばや表現方法には、かなりの苦手意識がありました。
中学に入る頃には日本語で困ることはほとんどありませんでしたが、それでも学校の勉強となると、ことばの壁が立ちはだかりました。そのことでクラスメイトにからかわれたり、差別意識を感じたりする度に、「私はブラジル人ではない。見た目は日本人。でも日本人でもない。」と、自分のアイデンティティについて悩み考えました。
自分のルーツがもたらした、ことばへの興味
ポルトガル語・英語を操る両親を見ていて、幼少期より「カッコいいな」と思っていました。ことばを話せることで〝コミュニケーションの幅〟が広がることを子どもながらも感じていたからです。同時に、日本語を上手く話せないことで、冷たい扱いを受ける姿もたくさん見てきました。
このような経験により、幼い頃から〝ことばは話せた方がいい〟と感じていたのかもしれません。そして、私のルーツがもたらしたこれらの経験がことばへの興味につながり、落語家という仕事と結びついているのかなと思います。
落語との出会いとその魅力
落語に触れたきっかけは、師匠らぶ平との出会いです。大学卒業後は舞台役者という道に進みましたが、私の舞台を観にきた師匠が「役者もいいけど、落語をやってみないか、面白いぞ。」と誘ってくださいました。この時点では、落語について何の知識も持ち合わせていませんでしたが、師匠の落語を聞かせていただくうちに、その世界にどんどん魅了されていきました。
落語の魅力はたくさんあります。映画やドラマなら膨大な予算がかかる一方で、落語は座布団一枚、しかも一人で壮大な世界観を表現することができます。つまり、特別な何かがなくても人を笑顔にすることができる、魔法のような力を持っています。また、落語は本来仏教の教えからきているため、それぞれの話に教えがあり勉強にもなります。
3か国語を操る落語家として、伝えていきたいこと
落語という面白い文化を世界に広めていきたいです。3か国語を落語に落とし込む作業は大変ですが、単語を変えたり、直訳ではなくリズムを大切にするなど試行錯誤しています。海外の方に楽しんでいただけた経験もあり、手応えを感じています。今後は「寿限無」だけでなく、さまざまな落語を3か国語で演じていきたいと思っています。そして、SNS等で世界にどんどん発信していきたいです。
また、落語家として、日系ブラジル人三世として、ことばの壁を感じている子どもたちに勇気を与え続けていきたいと思っています。「私も昔は日本語を話せなかった。それでも、日本語を話す仕事をしている。」そんな私を見て、子どもたちが「自分を信じて挑戦する」ことの大切さを学んでくれたらいいなと思っています。
(掲載誌:情報冊子「にほんごコミュニケ―ション」2022年9月号)